初代さまとアーウィンの場合
※若干BLっぽいかも注意
何の変哲もない微睡みの午後。読書に耽るアーウィンの頭上に、楽しげな声が降ってきた。
「今日は何の日か知っているかい? アーウィン」
「……何だ」
おそらく禄なことではないのだろうと予見しつつも、邪険にしないあたりがアーウィンらしい。
書物をかき分け隣に座ったフレデリックは、顔を「ん」と突き出した。見れば、見たことのない細長い菓子を口にくわえ、先をぷらぷらと己へ向けている。
意図を掴めずに、アーウィンは眉を寄せた。
「村の女の子に聞いたんだけど、このお菓子のこっち側とそっち側から同時に食すゲームらしい。今日はそんなゲームをする日なんだそうだよ」
口をすぼめたままで喋るとは器用なものだ。妙なところで感心しながら、アーウィンは読書に戻ろうと視線を下げ……そうはフレデリックが許さなかった。読みかけの本を手のひらで遮り、目の前に先の菓子をちらつかせる。
「珍しいだろう? 折角分けてもらってきたんだ、付き合ってよ」
「断る」
「良いじゃないか一度くらい」
「嫌だ。大体、何が楽しくてそんな」
「僕だって、野郎と顔を付き合わすのは本意じゃないさ。できることなら相手は可愛い女の子がいいに決まってる!」
「ならやめればいいだろう」
「そうはいかないな」
一拍おいて、フレデリックが悪戯っこのようににこりと笑んだ。
「キミの反応が面白くてつい、ね」
アーウィンは光の速さで読んでいた辞書よりも分厚い書物を振り上げた。クリーンヒットまで、あと、
アーウィンとリズの場合
今日も今日とて遊びにやってきたレナの友人たるリズとマシュー。アーウィンが彼らのためのオレンジジュースの準備をしているところに、リズがひょっこりと現れた。買い置きの菓子を入れようと用意していた皿に、彼女が持ってきた紙袋から何かを取り出した。
「これも一緒にお願いします。今日は11月11日なので、ついでに買ってきちゃいました。……って、アーウィンさんは何の日か知らないですよね、きっと」
早口で言うだけ言って、何でもないんですと笑うリズに、遠い記憶が掘り起こされる。アーウィンは薄らと口の端をあげてこたえた。
「私でも知ってますよ、リズ」
皿から例の菓子を選び出し、その一端を薄い唇がはんだ。
「えぇと、あのっ……」
リズはどぎまぎと目線を落ち着かなく漂わせた。見る見る頬が、彼女の首もとのチョーカーの如く薔薇色に染まってゆく。
「……からかいがすぎましたね」
ふ、と笑ってアーウィンは件の細長い菓子をぽきんと折った。欠片が見る間に食され消えてゆく。
「もう! アーウィンさん!!」
勿体ないことをしてしまったなとかもうちょっとだったのに惜しかったとかどうしてこういざってときの勇気がないのかしらとかからかうなんてひどいわとか、言いようもない気持ちを力一杯込めて、リズはアーウィンの背をばしんと叩いた。